『ようこそ地球さん』星新一 生まれた瞬間から処刑は始まっている
前田裕二さんの推薦(News Picks magazine)がきっかけ。
彼は「殉教」という一編を推していた。こちらも短いながら死生観を揺るがせる
今回は別の一編、「処刑」が非常に印象的だったので紹介
あらすじ
機械化が急激に進み、人は機械に支配されていた
機械に働かされ、疑問や反抗をしようものなら処罰される
反乱因子は殺人犯へと誘導され、その罪で処刑されるのだ
処刑方法は、カラカラに乾き水の存在しない赤い惑星への島流し
罪人は銀色の球体だけ手渡され、赤い惑星へと降ろされる
銀色の球体はスイッチを押すと空気中の水蒸気を水へと変える(水が手に入る)
その一方である一定数以上スイッチを押すと、持ち主もろとも爆発してしまう
罪人たちはいつ来るかわからない死に怯えながら、それでも水を飲むためにスイッチを押し続ける…
世界の見え方がガラリと変わる瞬間
読み始めは、文明の急進的な成長は人類の破滅を引き起こす、というような普遍的なテーマかと思われた。
AI時代への突入を前にしてみると、シンギュラリティの恐ろしさに警鐘を鳴らされているようにも感じてしまう。
しかし、最後の数行で私はあっと言わされてしまった。処刑という名の下に行われている、赤い惑星での死と隣り合わせの生活。
これは地球上で私たちが送る生活と同じではないか。赤い惑星において、日常のすぐ路地裏に潜む死が表面化しただけであって、骨組みはなんら変わらない。地球で生きる私たちだって、天寿を全うするかもしれないし、明日死ぬかもしれない。神のみぞ知るところだ。
タイトルの「処刑」とは人間として生まれ、生きていくことそのもの。
生まれた瞬間から刑は始まっている。